『GO TO にっぽん! ~コロナ禍が明けたら一番に見たい風景~』第19弾 「環水平アークと出会う田んぼ」(髙野孝子)

「あれっ、田んぼに油、浮いてますか?」

無農薬田んぼに素足で入り、腰を丸め、両手でひたすら草を取り除いていた時、一人がつぶやいた。確かに、茶色い田んぼの水にゆらゆらと油のようなものが漂っている。え?と思ったら「虹!」と誰かが。空を見上げてびっくり。

環水平アークという、雲の氷の結晶に太陽光が屈折して虹色に輝く現象だった。

私たちエコプラスは、新潟県南魚沼市を活動拠点の一つにしている。設立から今年で満30年となった。当初の、平和で豊かな社会を担う個々人の育成という主軸に、15年ほど前から地域づくりや「場の教育」の軸が加わった。

南魚沼市のいくつかの集落で、学びを通した地域づくりに取り組んできた。地域の人たちと国内外からの訪問者との交流は個々人に大きなインパクトを生み、在来知や歴史に体験的に触れることは、地元の青少年を含む多くの人たちの価値観を揺さぶった。豊かさって、幸せってなんだろう。

 

標高500メートルほどに位置する栃窪集落では、集落営農組織が取り組む、完全無農薬天日乾燥米を育てるプロセスに関わらせてもらっている。

土を耕して細かくし、水を入れて柔らかいベッドにする。モミから苗になり、それを丁寧に手で土のベッドに植えていく。両手を使って雑草を取りながら、稲の様子を見る。コメも人も手と手の間、「手間」の中でこそ育つと実感。数種類のカエルの合唱の中で、無数のオタマジャクシやタニシ、ヤゴの脱皮などを間近に見る。

周囲を見渡せば、雲海が広がっている時もある。抜けるような青い空、残雪をいただく山々や、色を増していく緑がこちらに話しかけてくるようだ。この光景を数百年前の人たちも、この地で見ていたのだろう。

 

美味しい空気を胸いっぱい吸って、自分もこの世に生かされている一つの命であり、他の命に支えられていることを実感する。そんな場に身を置き、多様な人たちとの対話を重ねながら、大切なことって何だっけと問い直し、前向きなエネルギーに満たされていく。

【エコセン世話人/NPO法人エコプラス 髙野孝子】

コラム「Go to にっぽん」の一覧はこちら
コラム「スペシャルな『旅の話』」の一覧はこちら
コラム「サステイナビリティを主張!」の一覧はこちら