『GO TO にっぽん! ~コロナ禍が明けたら一番に見たい風景~』第18弾 「集う人達が仕上げる農村の情景」(仲上美和)

「なんだか懐かしいのですよね」

農村で育ったわけでもない、田んぼ仕事の経験もない、初めましての方々が、田んぼが広がる風景をみて、そうつぶやくのがいつも不思議です。一体、田んぼのなにが、懐かしさを呼び起こすのでしょうか?

兵庫県三木市の端っこの里山を拠点とする、環境教育事務所Linoworksの仲上美和と申します。

普段は、外の地域や団体さんにお声がけいただいて出張事業を請負うことが多いのですが、暮らす地域の田んぼを自然体験の場としてもひらいています。写真の、村を見渡す高台にある田んぼは、長年放置され山へと返っていた休耕田を開墾し、今年で復活8年目。蔵に眠っていた昔ながらの農具を使って、出来るだけ手仕事の知恵を生かしながら、全国から集まってくださる方々と一緒に田んぼと四季の自然を楽しんでいます。

地域の人々に長年守られてきた田んぼには、積み重なってきた背景や、暗黙の決まり事が多く、よそ者が入り込むことを嫌がる村人が多いのは事実です。それでもコツコツと、昔ながらの農具や手法を生かして、全国から集まってきてくださる方々と一緒に野良仕事をしていると、物珍しさから村人が集まり、昔話で勝手に盛り上がる光景が現れます。よそ者だった皆が少しずつ地域に馴染んでいき、この農村風景をつくるピースの一つになってくれているのを感じられて嬉しくなります。

人々が懐かしがる農村風景は、実のところ、昔から変わらずそうであったわけでも、これから先ずっとそれが続くわけでもありません。私の暮らす集落も、住民が減り、高齢化が進み、かつて子どもだった私の記憶にある風景からは様変わりしています。今ある風景も、あと5年もすれば、全く様子が異なるだろうと予想しています。

人が暮らす地域の風景は、住人であれ、旅人であれ、そこに集う人々の関わりや想いを反映して仕上がっていく。そこの風景に人が関わっている、それが感じ取れるから、別の誰かの心がなにかしら動く情景になっていくのかもしれません。仲間と共に心身を動かしてはたらく、そんなごく自然な営みが、現代社会においては、なんだか珍しく、懐かしく感じさせるのでしょうか。

幸いにも、田んぼのある風景は、日本全国至るところにありますから、その中から、自分の心がぐぐっと動く、とっておきの情景を見つけてください。そして、もし出来れば、ちょっぴりでもいいから、その風景の担い手として関われるといいですね。お一人おひとりの存在があって育ってゆく情景に、私もまた旅の途中に数多く出会いたいです。

【エコセン団体会員/環境教育事務所Linoworks 仲上美和】

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