『これが日本の自然体験~エコセン世話人が独断で選ぶ日本の自然エリアと体験~』第25弾(くりはらツーリズムネットワーク)

『伊豆沼・内沼』
一般社団法人くりはらツーリズムネットワークの山本理恵子です。
2025年4月から地域おこし協力隊として宮城県栗原市に移住し、アドベンチャーツーリズム推進業務を担当しています。普段は、伊豆沼・内沼でマガンの観察ガイドをしたり、ハイキングやキャンプ、生き物工作などのイベントを実施したりしています。
移住前も同じ宮城県内に住んでおり、「伊豆沼のマガンの飛び立ち」は有名な光景だったため、よく見に来ていました。しかし、実際に伊豆沼のそばで暮らしてみると、渡り鳥の生活や、鳥と人、自然の関わりがより深く観えてくるようになりました。
今回は、そんな「伊豆沼・内沼」について紹介します。
宮城県栗原市にある伊豆沼・内沼周辺地域は、昭和40年くらいまで米作りのための干拓が繰り返され、現在の形となりました。
夏には沼一面を覆うハスの花が咲き、冬になるとマガンやオオハクチョウなど多くの渡り鳥が越冬しにきます。
1985年9月13日には、ラムサール条約湿地に登録されました。
マガンをはじめとする渡り鳥は、主に極東ロシアからこの地を目指して飛来します。
その距離、およそ4,000km。
遠くから、伊豆沼・内沼にやってくる理由は、「休める場所」と「食べもの」が、どちらもそろっているからです。
伊豆沼・内沼は、真冬でも全面凍結することがほとんどありません。
水辺は捕食する動物が近づきにくいため、安心して休息することができます。
そして、沼の周囲には広大な田畑が広がり、刈り取りの時に落ちてしまう籾や大豆があります。
コンバインで刈り取った水田では、1ヘクタールあたり約70kgの落ち籾、大豆畑では約360kgの落ち大豆があるといわれています。
これらは、マガンなどの渡り鳥の大切な食料となっています。

マガンは単独ではほとんど行動せず、家族や群れで移動します。
夜明けとともに一斉に飛び立つ光景は圧巻です。
風のない静かな朝には、羽ばたきが水面に響き、地鳴りのような音を立てながら、無数のマガンが鳴き声を上げて飛び立っていきます。この羽音と鳴き声は、「残したい“日本の音風景100選”」にも選ばれています。

日中、マガンは田んぼで落ち籾や落ち大豆を食べたり、体を休めたりし、夕暮れになると再び一斉に沼に戻ってきて、水辺で夜を過ごします。
全国に飛来するマガンの8割以上が宮城県北部に集まり、ピーク時には伊豆沼・内沼に約12万羽ものガン類が飛来します。これは、栗原市の人口約5万9千人をはるかに上回る数です。
9月末から3月頃までのおよそ半年間、伊豆沼・内沼では、こうした光景が日常になります。
特別に、鳥たちのための「越冬地」をつくっているわけではありません。
田んぼを耕し、稲を育て、収穫する。
人の営みのすぐそばに生まれる自然の恵みを、鳥たちが静かに受け取っているだけなのです。
ある農家の方は、「稲刈りで、籾が落ちてしまうのは悔しいけど、その落ちた籾をマガンが食べにきてくれると思うと、落ちてしまっても仕方ないなぁと思う。」とお話ししていました。
人と自然が無理なく寄り添いながら暮らしてきた、この地域ならではのあたたかさを感じます。
この関係が、これからも変わらず続いていってほしいと思います。
この地に暮らしてみて、私は渡り鳥をはじめとする豊かな自然を日常的に体感することができるようになりました。そして農家さんがつくる、美味しいお米もまた、この地の恵みのひとつです。
この地には豊かな自然と美味しい食べ物があり、私にとっては「豊かに暮らす」ということをそのまま形にしたような場所だと感じています。
この地の暮らしを体験しに、ぜひ遊びにきてください。

【一般社団法人 くりはらツーリズムネットワーク(栗原市地域おこし協力隊) 山本理恵子】

