『これが日本の自然体験~エコセン世話人が独断で選ぶ日本の自然エリアと体験~』第23弾(加藤 丈晴)

『出羽三山』
山形県鶴岡市、出羽三山の麓で、外国人の方々に向けて山伏修行や巡礼体験を提供している、羽黒山伏のタケハルです。
日本の国土の7割は山岳地帯で、かつて各地の山々は信仰の聖地でした。しかし今では人口の8割が都市部に暮らし、山が主役だった日本らしさは、多くの人にとって非日常となり、山もレジャーの場へと変化しています。
出羽三山エリアも、かつては白装束の修験者や巡礼者が参拝していましたが、現在、年間70万人ほどの来訪者の多くがレジャーやトレッキング目的で、山頂の神社への参拝者は少なくなっています。

そんな中、私たちは海外のゲストを迎えることをきっかけに、自分たちにとっての山の意味や、信仰の実践を改めて問い直し、伝え方を工夫する機会を得ました。8年ほど続けてきて、山を信仰対象とする世界観や、「死と再生」をテーマにした擬死再生、他の宗教的要素と混ざり合う多様な精神文化が、実は日本独自の精神性だということにも気づかされました。
私は、以前は横浜のベッドタウン育ちで、自然やコミュニティ、信仰もどんどん廃れていく環境で育ったため、「外から来た価値観が何層にも重なる日本のあり様」こそが、日本らしさであり、これから世界から求められるものなのではないかと、近年強く感じています。
出羽三山には「一度死んで生まれ変わる」巡礼路や行のフィールドが壮大なスケールで残っています。大鳥居、宿坊街、山伏の儀礼など、お山ならではの営みが今も信仰実践として守られています。

東日本の各地で、江戸時代から続く宿坊と檀家のエリア割りによる仕組みも残り、山の季節だけでなく、冬には山伏たちが檀家の元へ出向いてご祈祷を続けています。この営みは400年以上、絶えることなく続いてきたものです。
これらの伝統や文化も、時代の流れと共に消えていくものと言われがちですが、実際に失われれば「体験型観光」さえ成立しなくなる、まさに文化的絶滅危惧種だと改めて実感しています。
だからこそ、守り、活かし続ける工夫がこれから重要になると感じています。
外国人の方と本気で信仰体験を共有することで、その背景にある景観や自然、地域の文化そのものが、世界の中で誇れる価値となっていくのだと日々手応えを感じています。
自然体験に信仰実践が加わることで、日本の山のフィールドはさらに魅力的に映るのではないかと思います。

山形(Yamagata)は「mountains shape us」――山が私たちを形作ってきた土地です。
出羽三山に来られる際は、ぜひ宿坊に宿泊し、神社でご祈祷を受けてみてください。
できれば車で直接到着するのではなく、大鳥居のはるか手前から歩き始め、巡礼者になった気持ちで鳥居をくぐり、宿坊街を抜けて宿坊へ入り、朝の祈祷を受けてください。そして行衣(巡礼者の羽織)や白装束をまとい、死者の魂となる体験を通して、山頂の神社で祝詞とお経を唱え、最後に神職によるご祈祷で心新たな時間を過ごしてみてください。
新しい投資に頼るのではなく、ここに残る精神文化インフラを「味わい尽くす工夫」を重ねれば、きっと世界中から人が集まる場所になっていくと信じています。

【エコセン団体会員 / めぐるんCEO 加藤 丈晴】

