『これが日本の自然体験~エコセン世話人が独断で選ぶ日本の自然エリアと体験~』第16弾(吉田 直哉 )

『利尻島』

ここ10年ほど、「その場所に根を張って、地域のために何か面白いことに取り組んでる人」を訪ねることを、旅のテーマにしてきた。
そういう生き方を「モトクラシー」っていうことを、最近知ったばかり。
今回訪ねたモトクラシーな人は、利尻島で登山道整備の専門会社・トレイルワークスを立ち上げた岡田さん。
僕の地元、秦野のご出身という縁もある。
一緒に山に登りながら、ノウハウを実地で語っていただくお約束で、はるばる島を訪ねた。
…のだが…

2~3日前まで一点の曇りもなかった天気予報が、あれよあれよと悪化。
集合した朝5時には、吹き飛ばされそうな西風とスコール、ときどき稲妻がバババッどっしゃーん…
一気に萎え、布団に逆戻りして8時過ぎまで二度寝。
が、せっかくだから島一周案内しますよと彼が言ってくださり、気持ちを奮い起こして出発。
ときおりざーっと雨は降ってくるものの、ポン沼一周自然解説つき散策、郷土資料館や石蔵ギャラリーの濃い展示見学。

石蔵文化ギャラリー。押し海藻アートとレトロな民具の融合展示が不思議な空間。


ミシュラン掲載のラーメン店で昼食のころには、気持ちも上向きになり、雨も上がってきたではないか。
午後、いくつか彼が手がけた登山道を見せていただいた。
以下は彼の熱い語り。

--登山道が荒れる原因は、こういう雨の日に水が流れて、段と段の間にある土が抜けること。
これに尽きます。
--土が流れて変な段差がつくと、登山者は経路外を歩いてしまい、
踏まれてまわりの植生が消えて土が流れ、さらに悪循環に陥ってしまいます。

なるほど、おっしゃることはよくわかる。
けど、山だから、勾配があるのだから、どうしたって段差は避けられないのでは?

展望台でも、登山道語り

--でも、傾斜が急だからと言って段差が大きい階段にしたり、
踏面に勾配がある階段を作ったら、結局、段の間の土は抜けて、
歩きにくい道になっちゃうんです。

急な場所では、必要資材をけちらず段数を増やすこと。
大きな段差ができている階段では、周辺の石を持ってきてステップにしたり、
土抜け防止のために石を埋めたりしないと、です。
ちなみに彼は石と言っているが、そのサイズは、どちらかというと岩だ。
これ人力で持ってきて、埋める…!?
板や杭などの資材も、彼らはヘリは使わず、すべて人力で運ぶという。
利尻山登山道は往復10時間、気の遠くなるような作業だ。
が、実際に彼らが整備した登山道を見ればわかる。
丸太や板などの間に置かれた石のステップはごく自然で、
恐らく9割以上の人は、それが人為的に置かれたモノだとは思わないだろう。
他にも、丸太には切り込みを入れ、石段をジグザグに配して、
大雨のときは水が直線的な流れにならないよう誘導してる。
まるで自然の渓流のように。

岡田さんの解説を聞きながら、ポン沼一周自然散策

 

究極の登山道整備は、それが人工的な階段だなんて誰も思わない、
けど歩きやすくて、誰も周りの植生を踏まない道を作ることですよ。
それじゃあ岡田さんたちの大変な苦労は誰にも伝わらないのでは、
と思ったけど、答えは想像できたので、野暮は口にはしなかった。
僕らが丹沢で整備しているような、大量の資材をヘリで運んで、
みなさんのためにこーんなに整備してるんですよ、
ですから…みたいな登山道が恥ずかしくなってくる。
まあ、登山者数が桁違いなので一概に比較はできないのだが。

翌日の弾丸登山の下山路では、登山者の群れに混じり、資材を担いで登る彼らとすれ違った。
ご通行のみなさん、この階段一段一段に、彼らの工夫と思いと汗がどれだけ詰まっているかわかりますか。
この石は…と演説をはじめたくなるが、あー吉田さんお疲れさんです、
とさわやかな笑顔で応じてくれた岡田さんの自然体の姿に、ご苦労様がんばってーと返して見送るのみ。
本当に本当に、頭の下がる取り組みだ。

トレイルワークスの資材置き場にて(人物は私)。長さ4m、重さ20㎏のこのコルゲート管を山頂付近まで背負いあげるという

ところで、時間を前日に戻して島一周ツアーの終わり近く、
「ちょっと寄っていきますか」と、ご自宅にも案内していただいた。
小さな畑の後ろに、一周800mのマイ散策路を作ってるんですよ、
と嬉しそうに話す岡田さん。
その横には、笑顔が素敵な奥様と、小学校に上がったばかりという女の子。
育てていたおたまじゃくしが昨日カエルになったから、餌をあげなくちゃいけないの、
というので、しばし、僕らもいっしょに羽虫採集。
最初もじもじ隠れていたけど、すぐに人懐こい笑顔を見せてくれたお嬢ちゃん。
おいとまするときは僕らの車を走って追いかけて、懸命に手を振ってくれた。
北の国からの蛍ちゃんみたいだね。
♪あーあーああああ(^^♪さだまさしが自動再生。

自然と人の共生を目指すお仕事に取り組みながら、ご家族と利尻島の暮らしを楽しむ姿。
これこそモトクラシー、素敵だなあ。最後に素の岡田さんにもお会いできて、感動が倍増した感じがします。

山は登れなかったけど、利尻島来てよかった。
ゲストハウスまで送っていただき、晴れ上がった利尻山をバックに記念写真。
今日は本当にありがとうございました、と挨拶して、さてこれからウニ丼とビールで夕食だ。
と考えていた、まさにその時だった。
宿のスタッフMちゃんが出てきて、あれ、吉田さんたち山行かなかったんですねー。
私は、今晩からご来光見に登りますよ。
ちょっと待って。
これから夜登る?
その瞬間まで考えてもいなかった選択肢だ。
装備あるなら、一緒に行きましょうよー。
ほら、そうと決めたら、早くパンでも食べて寝る寝る。
11時には出発しますよ!

ということで、ほぼ勢いで弾丸登山決定! よい子は、マネしてはいけません。

利尻富士の夜明け、絶景!

ハクサンイチゲのお花畑

登山道整備の苦労をかみしめながら、一歩一歩、山頂を目指す

クマゲラの開けた穴は長方形だそう


旅行記は後編、森と匠とそばの村、音威子府編に続きます。

【エコセン監事 / NPO法人丹沢自然学校理事、神奈川県自然環境保全センター 吉田 直哉】


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