世話人へインタビュー!世界遺産編(伊谷玄さん)
「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」が7月に世界遺産に決定したことに関連して、エコセン事務局から世話人・伊谷玄さん(西表島)にインタビューをしました!
●まず、西表島でエコツーリズムが発展してきた歴史、エコツーリズム協会が設立された歴史について、教えてください。
伊谷 環境省が野生生物保護センターを整備するにあたり、その目的をヤマネコの保護とエコツーリズムの普及啓発の2本柱で進めていました。 エコツーリズム協会の設立も重要な課題で、エコツーリズムとは何かを広く知ってもらい、新たな産業の創出のために作りました。
もともと移住者にも地元の方にも、開発ではなく自然を活かすことで島を発展させるべきだと考える人は多くいました。ダイビング業はすでにブランドを確立していました。ならば陸上でもできるだろうということです。そのようなベースはありましたが、組織だった動きまではありませんでした。環境省のエコツーリズム推進事業をきっかけに、エコツーリズムに期待する人が集められました。
●エコツーリズム協会ができたとき(1996年)、地元の反応はどうでしたか?
伊谷 かなり大きく取り上げられました。また何か新しい組織ができた。でもエコツーリズムってなんだ?という受け止められ方だったかもしれません。ほとんどの人はこの時に初めてエコツーリズムという言葉を知ったと思います。
●現在西表島で、エコツーリズムは十分に普及していると思われますか?
伊谷 ESDという要素を持ったブログラムは普及していませんが、西表島の自然を大好きなガイドが、(自然を)壊さないように気を配って案内をしていると思います。とてもいいネイチャーツアーやアドベンチャーツアーが行われていると思います。
●ところで、伊谷さんが西表島でガイドをされるようになったきっかけはなんだったのでしょうか。
伊谷 西表島が環境教育を行うのにうってつけだと思ったからです。
(大学時代に)西表島の自然に憧れて、西表島を卒業研究の場に選びました。その時に、開発が進行していること、大昔から自然とともに生きてきた人々がいること、そして西表島の自然を大切にするべきだと言っている多くの方が住んでいる地域の自然が、もっと危機的な状況にあることなどが見えてきました。
●そうだったんですね。 貴重な自然の中で、環境教育を実施していこう、とされたわけですね。 先ほど言われた、ESDという観点のプログラムが普及していない、ということについて。 伊谷さんは地元の学校向けなどに、そういう観点のプログラム提供はされていますか。
伊谷 学校ではすでに「本物」の稲作体験を初めとする様々な学習が行われています。稲作体験は塩水選に始まってパッキングして販売まで、全てを子供たちがPTAの支援を受けて行います。売上は子供たちが大会に参加するための石垣島や沖縄島への旅費などに使われます。魚巻き体験では、網にかかった魚をはずし、包丁で下ごしらえします。毒棘のある魚も多いのですが、PTAは棘の処理の仕方を教え、子供に全てやらせます。他にも卒業証書作りやスキューバダイビングなどを総合学習でやっています。
●「本物」の稲作体験とはすごいですね。 それらのプログラムは、すべて伊谷さん(またはくまのみ自然学校)プロデュースですか?
伊谷 いいえ。わたしも協会で提案し、林野庁の事業で学校用の自然環境教育ブログラム集を作成し、各学校に配布しましたが、西表小中学校では、すでにもっと凄いことを実施していました。
●学校で、そのような深いプログラムが実施されているのは、先生たちが熱心だからでしょうか。
伊谷 先生はハラハラしながら記録係をしています。全てはPTAと地域住民の力ですが、それを実施させてくれている学校にも感謝しています。
●なるほど。地域の人たちの力ですね。それは、「地域の方々が、地元の自然や文化を守って子供たちに引き継ぎたい、と強く思っている結果」といってもよいでしょうか。
伊谷 離島の子供たちは中学卒業・高校進学とともに島を離れます。それまでに島の自然や暮らしを伝えてから送り出したいという願いです。将来のことは子供たち自身が決めることですが、それまでに出来ることはしてあげたいと思っています。
●世界遺産に決定に関して、伊谷さん自身はどのような感想をお持ちですか?
伊谷 「あ〜あ、やっぱりな」という感じです。西表島は、日本では知らない人はいない島なので、自然さえ大切にしていれば、末永く多くの人に愛され続けることができます。どちらかといえば、世界遺産の看板はよその困っている島に掛けてあげたかった。一番困るのは、保全体制が整わないうちに、海外からの訪問者が増えること。ほとんどの事業者は、今以上観光客は増えなくていいと考えていて、お願いだから島を保全する仕組みが整うまでは登録しないでと願っていました。
●保全体制とは、ガイドの条例以外に今計画されていること、またはやらなければならないことなど、具体的にはどんなことでしょうか。 コロナ禍が明けて海外から旅行者が来るまで、若干の猶予がありますが、西表島ではそれまでに何をやっておかなければいけない、と事業者や行政は考えているのでしょうか。
伊谷 遭難事故が発生した場合、消防団が捜索に当たりますが、消防団に入っている人は自分の仕事を中断して捜索活動に向かいます。西表島でも気軽な気持ちで山に入って、遭難するケースが増えています。ガイド事業者の多くが消防団に入っているので、出動がかかれば、その日ツアーに参加している訪問者にまで影響が及びます。また、西表島の動植物はマニアのターゲットになっている種が多くあります。保護条例ができても監視の目がなければ、保全はできません。これらの問題を解決するには、誰がどこのエリアを利用しているのかを把握できる体制の構築が必要です。 国有林では入林届の提出が義務付けられていますが、それが事故や違法採集を効果的に抑止できるとは思えません。「今日は〇■エリアに何人入っている」というのが把握できる仕組みは必要だと思います。また、新しくたくさんのルールができていますが、その中には訪問者が知っておくべきものも多くあります。トラブルが生じないよう、「発信しました」ではなく「伝わりました」を目指す情報提供のあり方を議論し、必要な整備をしていかなければならないでしょう。
●西表島のある竹富町はガイドに関する条例を制定し、域内ガイドと自然を守るような動きがあるそうですが、それについて教えてください。(竹富町は、西表島が属している自治体)
伊谷 ガイド条例を制定し、認定制度がスタートしています。島に住民票があり、公民館に所属していないと、ガイドとして認定されません。島に根を張って地域活動をしている人材でなければ、保全と利用を両立させたガイド事業はできないという考え方です。外部から見るとかなり高いハードルのように見えるかもしれませんが、既存の事業者はすでに実施していることばかりなので、大きな混乱はなかったと思います。
世界遺産を「利用」するだけで、「保全」のできない事業者の乱立を阻止ためには、妥当な内容だと思っています。住んでいない人がガイドするのは、よく考えるとおかしいですよね。
●お話を伺って、西表島の事情が色々とわかりました。環境を保全しながら活用するための、モニタリングの実施体制の構築が急がれますね。今後、たくさんの人が訪れても自然が壊れないよう、文化が守られるように注視していきたいです。ありがとうございました。
【伊谷玄さん:くまのみ自然学校】