「サスティナビリティを主張!」シリーズ 第21弾(伊谷 玄)

西表島といえば、日本最後の秘境やマングローブ、
ヤマネコの潜む原生林の島といったイメージでしょうか。
しかし、琉球王国に支配される以前から行われていた神事を今も継承する島、
支配されて以降は20世紀初頭まで人頭税という重税に苦しめられてきた島という側面も持っています。
沖縄県で2番目に大きい島で、14集落に2400名ほどが暮らしています。
そのうち古くから続く集落は4つのみで、私たちのくまのみ自然学校は
そのうちの一つ干立(ほしだて)にあります。

 

西表島の伝統集落・干立
干立は120名が住む集落です。集落そのものが中世時代の遺跡とされ、
八重山地方の原風景を最も残す集落です。
多くの神事や伝統行事を今も継承しながら、自給自足の要素の残る暮らしをしています。
神事とはウガン(御嶽)を中心とした行事で、チカ(神司)による自然への感謝と祈りの儀礼です。
神事はかつての暮らしの中心であった稲作の節目節目に行なうものです。
私たちにとってのサスティナビリティとは、自然だけでなく、
それに育まれてきた暮らしそのものです。

 

干立の伝統文化
干立が継承する神事は年十回を数えます。
三大神事は郷友会や近隣集落・行政の長など多くの客を招いて行うものです。
最大神事の節祭は3日にわたって行われる県内でも有数の神事です。
国指定重要無形民俗文化財にも指定され、多くの観光客が訪れます。
また、琉球諸島に広く伝わる動物供儀による防災儀礼シマフサラーは
多くの地域で形骸化していますが、干立は本来の形を受け継ぐ数少ない継承地となっています。
神事ではありませせんが、石垣島で有名な盆行事祖霊アンガマは干立でも行われています。

 

伝統文化の継承
干立ではどのようにして神事やその他の伝統行事を継承しているのでしょうか。
120人の住民のうち、先祖代々の干立で暮らしてきたのは19世帯で、
そのうち中学生以下の子供がいるのは2世帯にすぎません。
彼らだけで行事の継続はできません。それを補っているのが移住者たちです。
西表島の自然に魅せられて来る移住者の多くは、伝統行事に束縛されることを敬遠する傾向にあるので、
戦後に開拓された新興集落を選びます。
「あそこにはちょっと住めないよね?」と言われたりしている干立ですが、
そんな地域を求めてくる人も少数ですがいます。
移住者は怒涛の地域行事の洗礼を浴びることになります。
それまでの学歴や技術はほとんど役に立ちません。
草刈りから田植え・稲刈りの手伝い、神事の供物の材料調達、
台風の後片付け、行事の裏方仕事だけでなく、
芸能なども見よう見まねでこなさなければなりません。
当初は「大変そうだから住んでいる以上手伝わなきゃ」という感覚から、
「私がこの文化を継承していきます」という自覚に変わってきます。
土地を持たない移住者たちの多くは観光業に従事していますが、
神事の日には当然のように仕事を入れません。
先人たちが守ってきた伝統行事を継承していることに誇りを持っているのです。

 

離島はつらいけど
離島の離島であるがゆえに物価は異常に高く、近くの商店での牛乳の値段は330円です。
一年を通して十分な収入の得られる仕事は少なく、経済的には非常に貧しい地域です。
西表島を含め7つの離島を抱える竹富町の人口は4343人(平成30年12月)で、
当然行政サービスの水準は全国でも屈指の低レベル。
それでも移住者の多くが干立に来てから結婚しています。
日々の暮らしの中で、「この集落で家族を持って暮らしていきたい」
という気持ちが生まれるのです。
地域の先輩たちから海や山から季節の幸を得る知恵を学び、
荒れ狂う台風の猛威から身を守る術を得ることで、
行政に全てを頼らずに自らが切り拓く気風が育つのかもしれません。
平均の子供数は2.6名、集落人口の25%にあたる30名の子どもたちが集落を駆け回っています。
高校進学で島を離れた子供たちも、大きな行事には学校を休んで帰省し、
うれしそうに参加しています。

 

干立から伝えたいこと
毎日世界のどこかで絶滅している種があるといわれる今日、
「希少種」を絶やさぬように保全するという考え方は重要なことです。
「種の多様性」や「外来種」「固有種」なんて言葉が
TVのバラエティ番組でも普通に使われるようになったことは心強い限りです。
一方、身近な自然の恵みに素直に「ありがたい」と感謝するという当たり前のことが、
多くの人々が暮らす町の中から欠落しているように感じます。
「人と自然の共生」を考えたとき、人間活動を隔離した形での共存は意味がありません。
人が自然の一部としてあることの幸せを伝えていくことが、
干立からの大切なメッセージだと考えて活動しています。

 

【エコセン世話人 / くまのみ自然学校代表 伊谷 玄】

 

(2019年1月23日配信 メルマガ掲載)