「サスティナビリティを主張!」シリーズ 第13弾(大浦 佳代)

先週、福井県小浜市の阿納という漁村を訪ねました。
全世帯19戸のうち16戸が民宿を営み、12年前に教育旅行の受け入れをスタート。
昨年度「オーライ!ニッポン大賞」を受賞しました。

 

もともと阿納では、後継者が地元に残れる仕事をつくろうと、
30年ほど前からトラフグなどの養殖にも力を入れてきました。
しかし魚価が低迷し過密飼育で病気も発生。
そこで、養殖の規模を縮小し、新たな付加価値をつける教育旅行の受け入れを思い立ちます。
体験学習の目玉にしたのは「漁村ならではの食育」。
漁港内に釣り堀と調理施設を設け、養殖マダイを子どもたちに釣らせ、
さばかせ、食べさせる。
静かな漁村のたたずまいと心の通い合うていねいな対応が評判を呼び、
昨年は30校5000人が訪れました。
そんな阿納は今、外国人観光客を受け入れるかどうか迷っています。
これまで数回の経験で
「言葉が通じず文化も違うので、大切な食育のメッセージが伝わらない」
と感じたというのです。
この迷いには、
「食育ではなく商売と割り切れば確実に稼げる、しかしそれでいいのか?」
という自問自答があります。
これは、農山漁村での教育旅行のひずみに共通する話です。
先月、沖縄県の伊江島を訪ねました。
ここは250戸で年間5万人の中高生を受け入れる「民泊の島」です。
しかしスタートから15年たち、一部で「商売」感覚による問題が噴出。
今「初心に戻ろう」が合言葉になっているそうです。

 

安易な集客に飛びつかず、立ち止まって考えている阿納の人たち。
おそらく外国人客にもメッセージを伝える方法を見出すことでしょう。
孫の世代にも海をいかして阿納で働いてほしいと願っているからです。
信念を曲げずに自分が納得できるものを提供し、相手の共感を得て対価を手に入れる。
これぞ「持続可能な漁村」の交流術、サステイナブルツーリズムの根幹ではないでしょうか。

 

【エコセン世話人 / 海と漁の体験研究所代表 大浦 佳代】
(2018年10月3日配信 メルマガ掲載)