「サスティナビリティを主張!」シリーズ 第35弾(近藤 純夫)
ハワイ諸島は火山島であり、噴火活動は今日に至るまで途切れることなく続いています。
それゆえハワイの自然と伝統文化は、火山活動と密接に繋がっています。
ハワイ諸島を含むポリネシアとメラネシア、ミクロネシアを含む海域には多くの島がありますが、火山活動があるのはハワイ諸島のみです。
先住民が諸島に移住したおよそ1300年前に噴火活動を続けていたのはマウイ島とハワイ島の2島で、このうちハワイ島は激しい噴火が続き、しばしば集落や畑が焼き尽くされました。
すでに報道でご存じだと思いますが、ハワイ島では昨年も激しい噴火が起きて多量の溶岩を流し、地形を変え、集落の一部を潰しました。
しかしこの活動は一概に災害と言い切れません。
ハワイ島は今日に至るまで50万年以上も噴火を続けてきたのであり、つねに島の地形を塗り替えてきました。
いまから150年ほど前にイギリスの旅行作家イザベラ・バードが記載した記録や噴火のスケッチを見ても、キラウエアやマウナ・ロアと言った活火山が地形を変えるほどの溶岩を流していたことがわかります。
島はつねに変化し、これからも続きます。それを受け容れる島民は今も多くいます。
ハワイ諸島を作り上げる溶岩は玄武岩質マグマと呼ばれる粘性の低いものです。
日本では富士山や伊豆七島が同じ玄武岩質ですが、ハワイの溶岩はそれらよりさらに粘性が低く、水のように見えます。
そのため、滅多に爆発性の噴火は起こりません。
ハワイでは古くから、激しい噴火活動が起きた際は花見のように鑑賞する習慣もあったほどです。
溶岩は暮らしを破壊するだけでなく、新しい景観をつくる担い手という認識もありました。
火山活動は今日におけるハワイ島観光の基本と言えます。
世界遺産でもあるハワイ火山国立公園の存在が示すように、火山はいまも中心となる観光素材です。
活発に立ち昇る噴煙(主に水蒸気ガス)、流れる溶岩、冷え固まった溶岩が作る大平原、地下に広がる無数の洞窟、なめらかな溶岩に刻まれた先住の民の記号(ペトログリフなど)、洞窟を利用した貯水池や住居などは今も多くの観光客が訪れます。
観光局の統計によれば、そのうちの2割がエコ・ツアーとされます。
火山のつくる自然に共生するようにハワイ固有の植生があり、その植生に共生して動物の世界があります。
ハワイの自然環境は火山活動を軸として構成されていると言って良いでしょう。
火山活動はハワイの伝統文化にも大きな影響を与えてきました。
火山活動によって独自の信仰も誕生しました。
太平洋にはポリネシア、メラネシア、ミクロネシアという共通の文化圏があり、言語もかなり似通っています。
そのため文化的にも共通の内容が多く、神話や信仰はほぼ同一と言って良いほどです。
しかし火山信仰という形態だけはハワイ独自のものです。
有史以来、太平洋諸島で噴火活動を行っているのはハワイ諸島以外にないからです。
火山信仰は火の女神ペレという形に結実しました。
ハワイの神話には神々の他に半神という存在があり、半神は人間社会と関わりを持ちます。
ペレは気まぐれな性格で人間達を大いに悩ませたという物語が数多く残されていますが、これは予想の難しい火山噴火と、それに伴う溶岩の流出による災害を擬人化したものと言えます。
初めにお話ししたように、噴火は今日でもハワイの人々にとって無縁のことではありません。
火の女神ペレの信仰は、現実感を伴って先住のハワイ人に関わります。
また、島には津々浦々に伝統文化に基づく聖地があり、なかでもマウナ・ロアの北側に位置するマウナ・ケアには、世界を創造したワーケアの神と、ワーケアが創造した4人の女神の住処として大切にされてきました。

この山の頂近くで新たに建設される巨大望遠鏡に対し、先住民の血を引く人たちの多くが「ノー」という声を挙げました。
伝統文化と科学の対峙、あるいはエコ・ツアーが多くを占めるハワイ州の観光政策にも軋轢が生じていることを物語ります。
州知事は現在のところこの問題を解消できず、先週にはプロジェクトの2年棚上げを告げました。
ハワイ観光とエコ・ツアーにはこれ以外にも課題があります。
ハワイ島を訪れる観光客はもちろんのこと、他の島を訪れる観光客でさえ、昨年の噴火期間はハワイを訪れることを避ける傾向にありました。
州政府や観光局は何度も安全宣言を出しましたが、それが実を結ぶことはありませんでした。
ようやく噴火が下火となり、流れる溶岩が観られなくなると、今度は、火山活動が見られないのなら島を訪れるのは先送りしたいという声が聞こえはじめたのです。
地元にとっては、まさに踏んだり蹴ったりと言えるでしょう。
ハワイは大洋島と言って大陸から隔絶された自然環境を育んできました。
そのため、外来種の侵出に対する抵抗力が弱く、脆弱な環境は大きな課題です。
ナショナルジオグラフィックの調査によれば、ハワイ州は合衆国の領土の500分の1以下だが、全州の半分に迫る絶滅危惧種がカウントされているという統計がすべてを言い表していると言えるでしょう。
ハワイ州においてもエコ・ツアーの多くは表面をなぞるだけのものが多いですが、州や大学、環境保護団体と連携して行われる環境の維持と啓蒙的エコ・ツアーによる実践は、少なからぬ成果を挙げています。
【エコセン世話人 / エッセイスト、翻訳家、写真家 近藤純夫】
(2019年8月9日配信 メルマガ掲載)


