「サスティナビリティを主張!」シリーズ 第5弾 (坂元英俊)
「持続可能な観光のための観光地域づくりと滞在交流型観光の構築にむけて」
・持続的な観光への新たな潮流
2017年は、持続可能な観光の国際年でした。
2018年は、この概念と日本での普及が加速する年にしたいですね。
さて昨年は、九州の島原半島で国際フォーラムを開催しました。
実際に、半島を構成している島原、雲仙、南島原の各市では、持続可能な観光への認識やこれを実践していこうという潮流ができてきたと思います。
しかし、実際に実践していく場合、何から手を付ければ良いのか?
という疑問が、日本のどの地方からも上がってくると思います。
そして、日本中で人口減少が叫ばれているなか、地方の商店街は寂れ、農家の後継ぎも減少していると言われています。
しかし、これまでに行政や団体を中心に色々な施策が実行されてきましたが、現実的には、これ以上どうしようもないという結果が日本中に起こっています。
それでも持続可能な観光が必要とされているのでしょうか?私は必要だと思っています。
なぜなら、地域の暮らしが持続できなくなってきているからです。
個人個人での暮らしの継続は限界がきているのかもしれません。
しかし、観光地域づくりやGSTCの基準と照らし合わせてみたところ、今なら寂れた商店街の中にも、ポツンポツンと淡い光がまだともっているのです。
その光を集めて、明るく照らし、町が持っている商店街や連携した周辺農村の特徴を分かりやすくして、広報する時期にきていると思います。
そこに、持続可能な観光をプラスするのです。
・縦割り行政の弊害
縦割りの行政では、農政・商工・観光などの各部や課の事業で担当省庁が違うため、それぞれの補助金制度があります。市町村には、その省庁の繋がりに沿った補助金が流れてきます。
しかしその中には、部や課を越えて一体にした方が良いように思う補助金もあります。
例えば、人が集まる施策を行う部や各課の事業に対する補助金を横串に刺し一体化するのです。
そして、その施策の総合的な受け皿がDMOなどの組織であると考えます。
広域的な施策も考えていかなければなりませんので、ここに持続可能な観光の概念や取組みが入ってきます。
持続可能な暮らしに対する取り組みも同時に行なっていく役割です。
これらは行政として、かなり高度な組織変革の取組みになるのかも知れません。
戦後間もなくから、観光事業に対する強固な仕組みを作り上げてきた日本のこれまでの観光の仕組みを活かしながら、しかし、行政では部や各課で起こしていた、人が集まって来るための個別事業を一体化し、相互に繋がりあった共通の予算の仕組みを作り上げていくような変革の時期に来ているのかも知れません。
・DMOと地域の役割
DMOと地域が手を組んでいく場合、当該の地域がしっかりとして、地域共通のビジョンや取組内容を共有化することが大切です。
そして、これらの取組みを補佐することもDMOの役割になります。
今までの地域づくりと少し違うのは、人が集まる観光地域づくりの取組みだからです。
これまでとは真逆の新しい概念で、補助金に頼った事業ではありません。
もはや予算を活用する補助金行政は行き詰っている感じがあり、地域の補助金に頼る体質は変わらなければならないのです。
そして、これらは地域主導で、行政や地域の団体が一緒に進めることが大事です。
地域主導というのは地域に住み、生活を営む人達が自分たちの未来をしっかり考えると言うことです。
地域のビジョンや取組みに合わせて必要となる行政各課にある補助金を地域が選択し、活用していくのです。
これには、市や町あるいは村、これらが集まった広域的なDMOの必要性や行政組織としての変革が必要なのかも知れません。
・事例の紹介(エコセンの地域を元気にするという事例)
日本エコツーリズムセンターが過去に発行しているブックレット「地域を元気にする地元学」の中で紹介した“阿蘇カルデラツーリズムと地元学”というものがあります。
ここでは、人が通らない、猫の子一匹いないと言われていた阿蘇市仲町通り商店街が、少しずつ地元の若者たちの努力で回復していった様子が描かれています。
現在、その商店街には年間40万人が訪れていると言われています。
これは、仲町通り商店街などの補佐をしながら、一方で阿蘇全域の仕組みを阿蘇カルデラツーリズムとして組み立てていった阿蘇地域デザインセンター(以後、阿蘇DCと呼ぶ)の役割も大きいと思います。当時はDMOという言葉は無く、今考えるとこのDMOとしての役割を担っていたのが阿蘇DCでした。
国立公園や草原景観のエコツーリズムや農村のグリーンツリズム、商店街のタウンツーリズムなどを阿蘇カルデラツーリズムと呼んで連携し、これまでの観光とツーリズムを組み合わせて、新しい仕組みとして構築していったのです。
そして、各ツーリズムの中身を吟味し、他地域と比較して「ここにだけ」という地域の特徴も発信していきました。ここで大切なのは異質(地元の地域では当たり前と捉えられている)で魅力的であり、その地域に特徴的なものが連携すれば新しい効果が発揮できるということです。
人が集まるようにするのは観光もどのツーリズムも一緒だからです。
この突破口を現在では、サスティナブルツーリズム(持続可能な観光)と呼んでいるのかもしれません。
阿蘇市の仲町通りは、まさに暮らしが継続できる持続可能な地域として変身したのです。
この地域とそれらの地域が集まった全体としての統一感は、これからの地域がサスティナブルツーリズムを実践していくための大きな目標になるかもしれません。
そして、「100年先を見すえた観光地域づくり(個)」と「滞在交流型観光(全体)」の仕組みづくりにシフトする必要があると考えています。
エコセンは、専門家の集まりですから、今こそGSTC基準に関する専門家が手に手を取り、サスティナブルツーリズムを進める地域の補佐役として貢献していくための、新しい役割を担う時期でもあるのではないでしょうか。
【エコセン理事 /(一社)島原半島観光連盟 専務 坂元英俊】
(2018年5月2日、5月16日配信 メルマガ掲載)