田舎暮らしの達人!藤原誉さんに聞いてみよう‼ [第5回:狩猟編 その2]
《鹿と猪と熊のお肉。学生たちのワークのご褒美でBBQのお肉を用意しました。食も体験の一部。こんな経験が将来の価値観に影響するよね。》
「田舎暮らしの達人!藤原誉さんに聞いてみよう‼」へのご質問にお答えします。
田歌舎・藤原誉さんからのアドバイスを参考に持続可能な生活への第一歩を!
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【第5回:狩猟編その2】
さて狩猟編続編です。
Q.ワナ猟は行っていますか?猟銃での猟とどちらが難しいですか?
まず結論からですけど、どちらもそれぞれに奥深さがあって、また生息数や里に出没が多い少ない、
あるいは地域的に銃猟がし難い、あるいはし易い、鹿が多い、猪が多いなど
様々な条件の違いがあるのでどちらが難しいかということに対して答えはないですね。
なので、その営みの違いについて話しますね。
私は、ワナ猟は箱罠(檻)とくくり罠を時折やりますが、実は性格があまりワナ向きじゃないので、
猟期前半の猪狙い以外では、特段の事情(在庫が品薄でピンチ!とか)がない限りはほとんど罠猟をしません。ただ夏場には有害捕獲を含めてほぼ猟をしない事もあって、昨年の10月には猟期前で鹿肉の在庫がヤバイ状況になってしまい、止む無し、くくり罠やる気モードに入りました。
3週間ほどの期間で銃猟と合わせてなんとか9頭とりました。
で、「銃猟だけでは9頭とれないの?」と思われるかもしれないので補足説明。
経験年数の長い私ともう一人(ただし5ヶ月の乳飲み子の母で産休中にてほぼ猟に出れない)
には有害鳥獣捕獲の許可があるのですが、田歌舎スタッフの若手にはまだ有害鳥獣捕獲許可がないので、11月15日の猟期までは猟が出来ない。
なので、銃猟の方が僕としては手っ取り早くて良いのだけど、少人数でするには効率が悪いところもあってね。
1.猟犬を使った巻狩りは少人数だとたくさんの待場のすべてを抑えられないので、
なかなか獣が追い落とされる場所にビンゴさせるのが難しい。
2.さらに秋頃はすべての獣が十分の栄養を体に蓄えており、
一年で一番元気活発な時期でそうやすやすと猟犬に追われ負けしない。
つまり、しぶとくて追い落とされる場所、逃走するルートもワンパターンになりにくく、
こちらの予測を裏切られやすい。
3.忍び猟も不可能ではないが、落葉期前で草木も生い茂り一年で一番視野が悪い時期だ。
視野の悪さは巻狩りの難しさも増長させている。
4.獣たちは冬に備えたくさんの餌を求める時期。
森の恵み(ドングリなどの木の実)が不足する年なんかは特に里の田畑、果樹、
平野部の雑種地の餌を求めて夜になると活発に里に近づいてくる。
5.だけどそれなりに餌には事足りてはいる(飢えてはいない)ので
箱罠(檻)の撒き餌さには警戒して安易には入ってくれない。
10月とはそんな時期なのです。
つまり くくり罠の効果が高い時期なのです。
実際にはくくり罠で5頭、早朝の忍び猟で1頭、犬猟で3頭だったかな。
ワナ猟のメリットは自分一人だけで出来るということ。
仕掛けさえしておけば、勝手に獲れること。
例えば毎日の仕事がある人でも仕事の前に点検して、休みの日には丁寧に仕掛けをしておけば
「果報は寝て待て」方式で毎日点検に行く。その繰り返し。
自分が管理しやすい場所で、自分のペースでできるので様々な地域事情を踏まえつつ
それに合わせてやれる範囲から始めれば良いし、初めの1頭を獲るには近道とも言えますよね。
デメリットは毎日点検に行かなくちゃならない事。
法律的な事は別にして箱罠ならもし毎日見にいけなくても、とれた獲物も生きていることがほとんどだろうし、また他者にも迷惑はかかりにくい。
だけどくくり罠の場合はそうはいかない。
まず掛かった獲物を長い時間放っておくと、暴れ回って体を傷つけて骨折くらいなら当たり前で
鹿なんかは先に死んでしまう事も多い。
とれた獲物を大切にするという観点からも出来るだけ早い時間での点検と処理が必要だし、
安全の観点からもとても重要なんだ。
仮に大きな猪なんかが掛かっていた場合、自分以外の人が近くに来て襲いかかるなんて事も十分に懸念される事なんだ。
大きな猪の場合は決死の覚悟の際には自分の足を食いちぎって(引き千切って)でも逃げるよ。
実際ウチのくくり罠で経験あるよ。
ちなみに箱罠でも猪の大物の場合は要注意。
ワイヤーメッシュ檻など強度の低いものは見事に破壊されることがあるよ。
これまた私一度経験済み。
周りの罠師たちも長くやってる人はみんな何回かはそんな経験してるよ。
罠猟に向いている人は一人でコツコツと地道な作業を続けて、
成功も失敗も誰のせいでもなく自分の努力次第でさ、獲れた時にはひとり喜び噛み締めて、
心踊らせて、自分自身だけの経験と知恵の積み重ねで少しずつ上達していく事を励みできる人かな。
とにかく「めんど臭がりのサボりやさん」は向いてないし、あまりやって欲しくないな。(笑)
罠の人の「ズボラ」「サボり」「怠慢」で起こるトラブル、事故。決して少なくないからね。
銃猟は基本的にチームプレイ。
だからまず人(仲間たち)とのコミュニケーション能力、情報伝達能力がとても大事だよ。
さらには犬たちとのコミュニケーションやそれぞれの犬の特徴、働きを想像できる能力、
また獣それぞれの性質、能力を想像し、その他の様々な条件(地形・季節的条件など)と照らし合わせ、
スピードある動的な動きを予測し、それに備える頭の切り替え(俊敏性)や
経験に基づく「勘」(山勘:ヤマカンは猟師言葉が由来だそうです)が物を言う世界。
またある時は獣のいる場所まで歩き続け、またある時は極寒の待ち場で忍耐強く待ち続けるなんて
肉体的な事や、開始五分で獲れる事もあれば何時間も結果が出ず忍耐が求められるなんて事もある。
一言で言えば「ゲーム性が高い」という事。
そういう能力が高い人は銃猟に向いているのかな?
でも大事にしてもらいたい心構えとしては、銃は重大事故につながる恐ろしい武器であるっていう事。
失敗した時には自分の命を失う事もあるし、他者の命を奪う可能性もある危険な道具であると言う事。
私は鉄砲の所持が考えに浮かんでから3年間自問自答をして、ようやく30歳で鉄砲を手にしました。
さて結論はあなた次第。自分はどちらに向いているかを考えて、向いていると思う方から始めるしかないよね。(笑)
どちらにしても経験が物を言う世界。始めてみない事には分からない事ばかりだよ。
Q.猟をするとき、猟犬は何頭くらい必要ですか?
猟犬も人の個性と一緒で能力は様々です。
鼻が効いて足は遅くとも粘り強く正確に追い続けることが長所の犬もいれば、
足がべらぼうに早く、視覚を頼りにスピードで獲物を追い込む犬。
条件が良い時はすごい活躍するけれど、そんな犬はフェイントで巻かれる事も多くあったりしてね。
あるいは猪や熊猟に向いていて、飼い主からあまり離れず、獲物がいた時には鳴いて飼い主に知らせ、
獣が逃走しないように付かず離れず獣と組する犬。
だけど勢い余って獣に深い傷を負わされる(殺される事もあります)ことがあったり。
様々な猟犬のタイプがありますね。
質問の犬の数についてだけど。
1匹だけでも成り立つ猟犬、あるいは猟の形もありますし、
だけど複数の方が犬たちも心強くそれぞれが連携して能力を発揮してくるという側面もあります。
下品な例えだけど、集団でヤンキーに絡まれた際に一人だと謝るしか手がない時に
スンゲー強い仲間が助けに来てくれたら勇気が漲ってきたりしません?(笑)
そういう原始的な心理って動物も人間も一緒だと思うよ。
だからそういう部分も加味して複数で犬を使う人が多いのは事実だけど、
特に鹿猟なんかでは複数の犬がそれぞれ別の獲物を追い始めた時に、待ちに入る人間が目移りして
「二兎追うものは一兎も得ず」になってしまう事もあるんだ。
だから1匹でも成果を上げられる犬だと犬1匹での猟もやるよ。
田歌舎では今猟犬は5匹いるけど、大体は2組に分けて交互に使ってるよ。
でも時折条件や作戦によっては1匹だけで勝負するときもあるし、
いろんな風に使い分ける、つまり様々なパターンの猟ができる、
「様々なパターン(あの手この手)を持っている」ということが、複数の犬を持っていることの強みだね。
結局数が大事なのではなくて、どんな犬かが大事なんだよ。
そして血統書付きの素晴らしい犬であっても、ちゃんと育てないと立派な猟犬にはならないよ。
その事も人間と一緒。
たくさんの経験をし、人とともに獲物を狩る、ともに喜ぶ(主人が喜んでいる)
という成功体験を積み重ねる事で、犬は猟を仕事として頑張ってくれるようになるんだ。
日本語が喋れなくても犬は人と共に協力して猟をしていることをちゃんと分かってるからね。
だから、子犬を猟に使い始めた頃の1回1回はとても大切なんだ。
1.親犬に着いて行って頑張って獣を追いかけた。
2.人の前に追い出せて、鉄砲の大きな音がした。(びっくりして怖かった)
3.だけどご主人様の鉄砲は一向に当たらない。
4.引き続き追いかけたけど追いつかない。
5.獣に逃げられた。
これを10回繰り返したら、あなたが犬ならどう思う? 何を学ぶ?
と言うことですね。
もし自分の犬を育て、猟がしたいなら、一番はじめの大きな壁は1頭目の猟犬を育てあげること。
その事(ノウハウ)だけで膨大に文章書けそうだよ。(笑)
Q.獣の肉をおいしく捌くために気を付けることは何ですか?
「生きている獣(鹿・猪)に不味いものはいない。不味くなるのは人間の仕業。」
これが私の持論です。
捕獲後の速やかかつ丁寧な内臓摘出と血抜き、そして流水などでの速やかな冷却。
これに尽きます。
生きている時の体内細菌は共存するために支え合っている菌がほとんど。
でも死んだ瞬間からはその肉体を腐敗させる菌が容赦なく増え続けるんだ。
そういった菌は人間にとっての悪臭を放ち、取り出されない限りは血管という道を伝って全身に巡って行くんだな。
そして生きるために必要な40度ほどの体温は、死んだ瞬間からは逆に最もその身を腐らせる温度となるんだよ。だから一刻も早く冷やさないといけない。
冬は気温も低く時間的猶予は長いけど、真夏なんか10分でも許しがたい遅れとなるね。
なので、適切な下処理ができて、冷却(冷水で半日から1日)後、出来るだけ速やかに解体すれば、
肉をその手で汚さない限りは、すべて美味しいお肉となるんだ。
あとは季節的な品質、オスメスの違い、年齢による違いなど様々な個体差があるので
美味しさの感じ方はそれぞれのところはあるとは思うけど。
手に入れた肉の特徴をつかんでその特徴にあった調理、料理をすれば脂の乗りの悪い猪でも、
痩せた春先の鹿でも全ての肉を美味しく食べることができるよ。
その調理法の話もこれまた膨大な文章になりそうなので今回はこの辺りまでで。
Q.夏にレストランのメニューで使用するジビエは、どうやって保存していますか?
基本的にはお肉の保存は真空パックとマイナス20度以下での冷凍保存ですね。
この二つが出来ていたら1年くらいはほとんど問題なく保存できるよ。
田歌舎ではテーブル式の冷凍庫数台の他にプレハブ冷凍庫(幅2m 長さ4m 天井2.2m)があって、
ホシザキの真空パック機があったりするけど合計250万円くらいするよ。(笑)
そんな訳で、おかげさまで1年中良い状態で保存できているよ。
余談だけど、電気代はお店のショーケースや他の厨房機器なんかも含めて半端ない!
月8万円くらい掛かってる。
田歌舎にとってはエネルギーの自給が最たる難題だよ。
今あるソーラパネル67枚では電気代の6割くらいしか追っつかないし、
車や農機具などで使う化石燃料にも頼りっぱなし。
冬の暖はほとんど薪で補っているとは言うものの、エネルギー自給と胸を張るにはまだまだ課題だらけ・・・。
さてさて、本題に戻って。
個人的な営みの範疇だと、テーブル式の冷凍ストッカーだと200リッターサイズくらいなら5万円くらいからあるし、
自分の営みに合わせたサイズを選べばいいよね。
真空パック機も小型のものならば中古品なんかで10万円くらいで見つかるよ。
ただ真空機は数万円程度の安価な商品は性能が非常に劣るので、短期間の保存には使えても、
長期の保存ではお肉の劣化(酸化)が避けられないかな。
どちらにしても生活ベースの営みならば30万円くらいで何とか使えるものが揃えられるし、
1畳から2畳のスペースで十分収納できるよ。
1年で10頭獲って、ストッカーには他の保存食なんかも入れて上手く活用すれば、
自給自足がより豊かになるよ。
そんなサイズで上手く生活している人たくさんいますよ。
狩猟編は、今回はここまで。
もうすぐ春ですね。春らしいテーマ、考えますね。
またの質問お待ちしております。
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