田舎暮らしの達人!藤原誉さんに聞いてみよう‼ [第7回:農業編]

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【第7回:農業編】
「農業を学びたい!」
この春は昨年までいた農業中心の研修生が卒業し、新しい研修生がいないため、農作業のほとんどの作業が私自身に戻ってきました。
そんなわけで連休以後はほとんど毎日のように田畑へ出向く日々を送ってきましたが、ようやくほとんどの稲、お野菜たちのための畑づくりから植え付け、支柱たてなどの初期の作業は終わりとなり、一息をついた今日この頃です。
でも、数年ぶりに農業中心で過ごす中で、やはり農業の楽しさを再確認するところでもあります。
田歌舎では1年中、旬のお野菜を作り続け、限りなく100%、お野菜を買うことはありません。
そんな農業について今回は書きますね。
Q.農業を学びたいのですが、どのくらいの時間がかかりますか?
長くなりますね~。これを書くには(笑)
まずどんな農業をやりたいのか、ということを整理しておきます。
・生計を立てるために農業をやりたいのか
・自給自足のために農業をやりたいのか
生計を立てるための農業は基本的には大量、少品目が基本です。
例えば「イチゴ農園」のような観光農園だとか、「有機無農薬トマト」で加工品なども手がけた付加価値をつけた販売とか、あるいは慣例農法(化学肥料や農薬も使用するJAなどで指導された通りにする農法)であっても5ヘクタール(5町)以上くらいの大面積で、稲作で薄利多売に徹するとか、あるいは、希少価値の高い野菜や山菜に焦点を絞って栽培するとかですね。
方法は様々、可能性も無限大ですけど、そんな感じで、より専門特化することで機材、資材を駆使して効率を上げて最大限にメリットを引き出すことが成立の決め手になってくるんですね。
それに反して生計を立てるための農業としての多品目、少量というのはとてもとても厳しい挑戦です。
少量多品目の経営で慣例農法(農薬、化学肥料バリバリ)というのはまずあり得ませんよね。
商品としての魅力も安定供給もないのだからね。
大量出荷できる慣例農法の農家さん達に太刀打ちできるわけはないのです。
ですから少量多品目を生業として成立させようとすると、こだわって丁寧に栽培した素敵な旬のお野菜達を、数少ない出荷先やその先のお客様に期待を裏切ることなく通年お届けする、という形態が望ましいわけです。
そして多品目を有機無農薬でそつなく栽培するということは、多品目のお野菜全ての生態を熟知する必要もあれば、1年を通して絶え間なく、様々なお野菜達の声を聞き続けなくてはならないということ。
もちろん声を聞いたらその声に応え続けてあげないと高いレベルで求めている消費者が納得してくれるような素敵なお野菜に育ってはくれません。
実際には無尽蔵な個別の世話(作業)が1年を通じて目まぐるしく展開していき、息を抜く間もないことになるわけですね。
さらに、大量栽培する際にはその品目のためだけの資材や機械類などもしっかり揃えることで作業の手間を大幅に削減し、作業対効率を最大限にすることを目指せるわけだけど、多品目の場合にはその全ての品目に合わせた高価な資材や機械類を導入することは難しいわけで、恐らくは多くの作業を同じ資材の使いまわしや、工夫が求められ、何年もの積み重ねの経験値から合理的なノウハウを自ら作り上げていかなくてはなりません。
つまり相当な気合と根性に委ねられることになるわけです。(笑)
なので、まず生業としての少品目、大量の農業を学びたいとするならば、それは実践者のもとで一定期間修行する(働いてみる)とこが一番だと思いますよ。
仮にその品目が、将来自分がやりたいものと違っても、どのような考え方でその農業が成立しているのかを学ぶことができれば、作物が変わっても使う資材などが変わるだけで、考え方は共通することが多いし、応用できることは大いにあるわけです。
さて、生業としての農業についてはここまでとして、自給自足としての少量多品目の農業を通して農業を学ぶということにフォーカスしてお話ししますね。

女子スタッフご要望の厨房側の小野菜菜園をこの春増設。ちょっと欲しいどきに近くて便利と言うことで
まず、どれくらいの時間がかかるのか、ですけど。
今の日本の気候は毎年毎年想定外の大雨や干ばつや季節外れの高温やあるいは低温など予測不能な事態が農業を困らせています。
その点から見ても1年だけの経験というのはその年に「たまたまそうだった」という要素がとても大きく、確かに得る経験も多くはありますが、確信するほどに学べるということは難しいと思います。
ちなみに気候の問題というのは単に「水が不足した」、とか「強風でなぎ倒された」と行った直接的な被害だけではなく、野菜を害する虫の発生やあるいは獣害など気候に影響を受ける様々な生き物たちの「仕業」にも大いにリンクしていて、とある年に大発生する害虫がいたとして翌年にはその害に対して十分な備えをして臨んでいるにも関わらず、また別の害虫による経験したことのない害が発生するなんてこともあったりで、生き物たちも気候の変動の中でいろんな違いが毎年のように発生します。

ズッキーニがやっと採れ始めました。昨夜の大風で少々葉が折れてしまったけど、まあ軽傷で済んだよ
20年ほど前までは、旧暦の暦が示すように概ね決まったパターンで季節は移り変わるものでした。
なので地域によって気候の差があり、様々な適期にズレはあるのだけど、
4月になって、「コブシが咲いたらジャガイモ植えよう」だとか、「5月初旬に夏野菜を定植してもうちらの地域は涼しいから、5月下旬までは保温のポットを
暫く被せておいて育てておくと暖かい地域と同じように早くから夏野菜が収穫できるよ」とか、
8月の少し前のことになると、
「秋に食べる白菜は今蒔き時だけどこの時期は虫が多いから防虫ネットは欠かせないね」だとか、
「冬のお鍋のネギを育てるためには、8月初旬に今植わってるネギを抜いて暫く干して盆の頃に株分けして植え直すんだよ」
とか、
「大根・かぶらは8月末~9月初旬だけど、近年10月が高温の時が多いから9月中旬に撒くと虫の発生も少なくて楽だな、でも今年の10月が寒かったら間に合わないし、時期をずらして2回タネを撒こう。」、だとか、
「玉ねぎの種まきは撒くのが早すぎると冬までに育ちすぎて、春に董立ちの原因になってしまうけど、かつては9月7日前後だったのが、近年の気候だとこの地域は9月15日の前後で撒くのがうまくいくな。」とか、
かつてのパターンを手本にしつつも、今の気候に合わせたタイミングを毎年毎年の経験から、その地域にあった農業カレンダーを作っていかなくてはなりません。
で、そのノウハウは残念ながら市販されたマニュアルとは必ずズレがあって、近隣の上手な農家さんを定期的に除き見してみたり、あるいは仲良く井戸端(道ばた)会議をしながら教えてもらったり、そんな地域の皆さんをお手本にしつつも、それを鵜呑みにするだけでなく自らいろんな想像力を働かせて挑戦を積み重ねていかなくてはなりません。
ま、それが面白いんだけどね。

手前からインゲン豆、トマト、唐辛子ピーマン類、茄子、とうもろこし、こちらも昨夜の風でいじめられましたがなんとか軽症で。
そんなことで、
「農業を学ぶにはどれくらいの時間がかかるか?」
との問いの私の答えは
「人生かけても学びきれません。」
ということになるのです。(笑)
私自身も20年以上も農業やってても毎年なんらかの失敗は続くし、なんとか1年中のお野菜を欠かすことなくほぼ100%自給しているけど、たった今は春に撒く根菜が少なくて、夏野菜が取れ出すまでのこの時期に
「玉ねぎはたくさん出来たけど、ジャガイモももう少しかかるし、食える野菜は葉っぱばっかりやんけ!!」
「もっと根菜を撒いておけばよかった~。」
なんて嘆いている次第。

自然薯&菊芋のマイナー野菜。コンニャクや生姜、ニンニクなんかももちろん作ってて年中切らしません!
ですが、まあ3年くらい真剣にいろんな情報から学び、挑戦し、お野菜たちの声にしっかり耳を傾けることができれば一定の自信がついてくるんじゃないかな。
お野菜の声を聞くセンスは俺にとっては家畜の声を聞くこと、さらには山で猟をしている時の動物たちの思考を想像することとにすら通じているように思うよ。
俺にとっては人間とのコミュニケーションの方が難しいや。(笑)

今の食生活の中心の草(くさ:葉野菜のことを私たちはこう呼びます)たち
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