田舎暮らしの達人!藤原誉さんに聞いてみよう‼ [第2回:水]
《貯水槽》はじめは手前の1000L1台でしたが、設備の増加に伴いストック量を上げ、水圧を維持するために3台に増設しています。3台それぞれに1本づつここから各施設へと水圧を得て送水されます。
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田歌舎・藤原誉さんからのアドバイスを参考に持続可能な生活への第一歩を!
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【第2回:水】
今回は水の話の続きですが、あまりにも水の脅威に晒されたこの夏。
時事ごとのボヤキから始めたいと思います。
関西では西日本水害の時の大雨に始まり二つの台風の直撃と、水の被害が甚大な年となりました。
そんな中、幸いにも美山ではきっと他所ほどに大きな被害なくすんでいます。
それは美山は中央分水嶺、内陸部の源流に位置するので、
四国や紀伊半島のように始めに台風の暴風雨にさらされることが無く、
比較的勢力を落とした状態で雨雲が到達してくるからに他なりません。
他所での大きな災害を見るたびに、何重もの自然の要塞に美山が守られていることを実感します。
だけど、流石に連続する豪雨のせいで、今回はいたるところでの土砂崩れや道路の崩壊は酷く、
使用頻度の少ない林道や農道の被害は、今の行政のあり様(スピード感)では、
数年先までほぼ手に負えないレベルになってきています。
復旧を待つまでに次の災害を迎え、ますます悪化するという負の連鎖になりつつあります。
実際、昨年秋の台風の爪痕も多く残っている中での今年の台風、連続する災害のジャブを受け続けていて、いずれはノックダウンするような、そんな危機感を感じざる得ません。
さて本題の水の話、
と言いつつ、これまた台風がらみのお話からなのですが・・・。
今回の災害で、田歌舎のある田歌集落では1週間近くの断水になりました。
そして今もなお、仮復旧の状態で濁りがあったり、水圧が弱かったりと不便が続いています。
ですが、そんな事態の中でも旧家の多くでは昔より最寄りの谷から使い水として谷水を引き込んでいて、
そういったお家では今回の断水時にも必要な水を身近に確保できていたということがありました。
また田歌舎の自家水道もほぼ無傷でした。
断水中には田歌舎も含めてそれぞれ水があるお家でお風呂やシャワー、洗濯機を解放して協力し合いました。
コミュニティー(地域力)のありがたみ、大切さ、良さを感じた出来事でした。
反面、こういった災害の際につくづく感じるのは大規模なインフラの脆弱さです。
普段は余りあるほど便利ですが、災害になるとまるで機能しないし、
復旧に対しても全く素人に手が出せないんですね。
小さな規模のものならば被害があっても自分たちの手でやれる事も多く、
コミュニティーの力も発揮しやすいし、そんな時こそ力を合わせて結束力を高め協同し、
災い転じて福と成す事もあるものです。
こういう災害を通して見ても、小さな単位で独立、自給できる仕組みは大切だなと思う。
こんな気候が荒れ狂う時代だからこその小さな単位の方がメリットを感じる昨今。
さて、今回はそんなホットな水のお話の続き、田歌舎の自家水道の仕組みを紹介したいとおもいます。
#水源に取水口を作る
田歌舎の水源は田歌舎の敷地から約400m離れた山中にあります。
水源は約7mほどの岩盤の上部から湧き出、滝のように流れ落ちその後再び伏流水として消えさります。
その滝の途中の段差のある部分に取水口の堰を作り、堰に溜まる水をパイプを伝って取水タンクに導きます。
堰の取水口は何重にもストレーナーで包み込み出来るだけ異物がタンクへと入り込まないようにします。
また落石や土砂、落ち葉などで取水口が圧迫されないようにストレーナーの素材は網などの他に
立体のザルを加工して取水パイプを包み込むなど複数の素材を組み合わせて能力と共に耐久性を上げる工夫をしています。
《取水口》1年に3~5回程度上に積った土砂や木片などを取り除きます。取水口が押しつぶされないように立体的になるように様々な素材のストレーナーを組み合わせます。
とはいえ、取水堰へ流れ落ちる水は季節によって水量も変化し、
落石や落ち葉などの不可避な障害物に常に晒されていて、ストレーナーが破損、破壊されることもあります。
また外圧による変形の隙間からストレーナーをすり抜けて入る、チリや木屑、
砂をすべて排除する事はできません。
だからこそ水源の側に取水タンクを設置する事が大切です。
《ストレーナー》
取水パイプに接続します。これにより3mm以上の木っ端は絶対に入りません。穴の面積の合計がパイプの径以上になるように多くの穴を空ける必要があります。
#取水タンクで異物を完全に除去する
取水タンク内では取水堰から取り込んだ水から大きな異物(木屑、木っ葉など)を完全に除去します。
施設の側にある貯水タンクへの400mの配管内にチリ以上の固形物を絶対に入れないことが極めて重要なのです。
取水タンクに備わる機能は、
①浮遊物ごとオーバフローを排出する排水口
②固形物を完全に排除した水を施設へと送水する取水口に取り付ける特殊なストレーナー
(形状、高さなどに大切な工夫があります)
③沈殿物を排出するためのドレーン(排出口)
④清掃の際やトラブル発生時の修理の際などに送水パイプへの流れを止めるためのバルブ。
清掃時などに濁りや異物がパイプに流れ込まないために重要なバルブです。
#送水パイプを埋設する
そうしてようやく取水タンクから出た水はチリ以外の濁りのない状態で送水パイプを通じて施設そばにある貯水タンクへと高低差の力で流れていきます。
田歌舎は取水タンクから貯水タンクまでの距離が約400m、
高低差は20m足らず(測ってないのでおおよそです)です。
なので厳密には4mで20cm以下という極めて緩やかな勾配で導くことが理想となります。
実際には地形の問題(岩盤や大木)もあって、理想通りにはいかないのですが、
なんとか1箇所のみ上がり勾配になる地点ができ、そこにはエア抜きを作って貯水タンクまでパイプを繋げました。
そして400mのうちの100mほどが崖っぷちで埋設ができず、宙吊りになっていますが、
残りの300mは地面に埋設して導いています。
《埋設パイプ》 許される限り埋設します。深さは深いにこした事はありませんが、極寒地域でもない限り浅くても大丈夫。外圧に晒されないことが重要な要素です。
◆最後の貯水タンクへは逆に下げすぎた分の高度を取り戻すように少し勾配を上げて、
施設からの高さを20m以上に確保できる場所に設置しています。
◆埋設は温度の維持、凍結防止、また落石や倒木などによる破損から守るためにも大切です。
やむ得ず宙吊りの部分は弱点です。
実際に倒木にパイプが引かれて抜けるトラブルが2回起こっています。
#ストック量十分な貯水槽を設置する
貯水槽では水の中のチリ(砂・泥)を静かに沈殿させることが重要です。
そして沈殿物が撹拌されない様、多少の流量の変動に動じない槽の大きさが必要となります。
そして流入量を安定させるために貯水槽の手前にバルブが必須で、このバルブがこのシステムの肝となります。
このバルブは通常運転では10分の1程度しか開けません。
そのことにより送水パイプ内の水圧が維持され、パイプ内のエア抜きも自然とされます。
また流入量を安定させる事で貯水タンク内の水流を安定させ、不純物の沈殿を促進させ、
沈殿物を撹拌させないこが出来ます。
◆貯水タンクの内部のカラクリは実は取水タンクとほぼ一緒。
安定した沈殿と濾過させるためのポイントとしてはより大きな貯水タンクの方が安定するということ、
またタンクを連結させて沈殿の能力を高める事もできます。
#高低差を利用して蛇口に水圧を得る
そしていよいよ貯水タンクから家庭などの蛇口への配管です。
効率よく水圧を得る上で大切なことは出来るだけ短距離で高低差を多くつけて建物まで導くこと。
田歌舎の貯水槽は施設の一番近い蛇口から20mほど高い位置にあります。
なので水深20mの水槽の下に蛇口が付いている状態をイメージしてください。
ただパイプの距離が長すぎたり、複雑に曲がりくねっていたりすることで多少水圧をロスします。
またパイプの直径は蛇口まで次第に細くなるのはOKですが、
途中に細くなる箇所(パイプが折れ曲がっているなども含めて)は厳禁、
それはそこにバルブ(蛇口)があって水量を絞って出している事と一緒、つまりその先の圧力を大幅に失います。
施設の側まで来るといくつも分岐が必要となります。
台所やトイレ、厨房へと配管が別れて行きますが、メインパイプは直径3センチ以上で導き、
分岐から先は2cm、最終は蛇口へは13mと順番にサイズダウンします。
水圧を落とさずに蛇口まで導くためです。そしてメインパイプの最終にはドレーンバルブが必ず必要です。
修理、改造の際、凍結防止で水を抜く際などパイプの水を全て抜くためです。
実際には田歌舎の施設内には30箇所以上の蛇口があります。
貯水槽からメインパイプを3本別々に施設まで埋設し、それぞれ分岐しながら10箇所ずつ程度の蛇口を賄っています。
3本別に引く理由は複数の蛇口を同時に開けた場合、メインパイプの直径以上の面積を開けると水圧が下がるためで、
ホントはメインパイプを直径5cmくらいで引いておけば1本ですんだかも知れないんだけど、
施設が増えるたびに増設したので3本になっちゃったんですね。
さて、言葉ではイメージできにくことも多いと思いますので、こんな程度でご容赦ください。
あとはもっと知りたい方はどんなことでも是非質問してください。
また、田歌舎の方法はいくつかある方法のうちの一つです。
地理的な条件が違う所では別な手段も必要ですし、考えられますね。
そう言った違うロケーションでの水利についても質問いただければアドバイスできます。
形は違えど押さえるべきポイントは共通していますのでね。
《余水排水口》
ではまた次回。
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