スペシャルな『旅の話』シリーズ 第21弾!(大浦 佳代)

旅先でのわたしは、よくいえば好奇心にあふれ、

あけすけにいえば「物欲しそうな」顔をしているに違いない。

行きずりの人から、飲食の「ふるまい」を受けることがけっこうある。

 

最初は、20歳の晩秋の尾瀬。

シーズンが終わって閑散とした土産物屋で、地元のおっちゃんたちが盛り上がっていた。

ストーブの上のやかんの中には、たっぷりの日本酒とイワナがうようよ。

「地元特権で、自然公園内で釣った」と、得意げだ。

イワナ酒を知らなかったのでギョッとしたが、

おそるおそる含んだ熱い酒は、じつにうまかった。

尾瀬の風景が好きで通っていたのだが、ここにも人の生活があると知り、

何だか世界の見え方が変わった気がした。

 

22歳で旅したフィリピンのカタンドゥアネス島では、ヤシ酒の車座に声をかけられた。

ヤシ酒は、花芽近くの樹液を集めて発酵させるそうで、ふんわり甘い香りがする。

でも、朝のうちに飲まないと、午後には酢になってしまうという。

その神秘性のせいか、よけいに酔っぱらった気がした。

 

アフリカでは、ザンビアからジンバブエに向かう長距離バスに、

知らずに食料を持たないで乗ってしまった。

昼時になると、乗客はそれぞれ食べ物を広げて楽しそうだ。

腹ぺこのわたしは、よほど“ガン見”していたのだろう。

一人のおばさんが、鶏肉をぐいっと千切って分けてくれた。

塩味だけのこれが、うまいのなんの!

こともなげに外国人に食べ物を分ける心の豊かさに、涙が出そうだった。

 

沖縄のやんばるでは、広場でヤギを煮ていた、おじい・おばあの同窓会に遭遇。

飼っていたヤギを海岸でつぶしたというヤギ汁は匂いが強く、たくましい生活の味がした。

これはわりと最近、同じく沖縄の伊良部島で、

タコをぶら下げて海からあがってきたおじいと、ふと目が合った。

「大漁ですね」と声をかけると、

「食べるかー」と、いきなりタコの足を1本かみちぎって差し出された。

まじめな顔で「海で洗えば汚くないさ」という。

ありがたく受け取り、その場で食べたけれど、さすがにびっくりした。

 

思えば旅の楽しみは、その土地の“くらし”のおすそ分けをいただくこと。

人の家の晩ごはんのお相伴や、一夜の宿を頼み込むTV番組があったり、

農家民泊や郷土食の体験が旅行商品になるのは、よくわかる。

わたしは、ふるまいのお返しに写真を撮ってプリントを送ることもあるけれど、

たいていはお礼の言葉だけで終わる。

いつか、わたしの前を通りがかった旅人に食べ物をふるまいたいと思うのだが、

まだそんな機会はない。

 

【海と漁の体験研究所 大浦佳代】
(2020年12月4日配信 メルマガ掲載)