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イトヒロの東京不自然図鑑

<月イチ連載>

2004年9月7日up

 新宿から電車で10分。住宅地とはいえ、東京のど真ん中ともいえる世田谷にも自然があります。というより、都会でしか見られないような自然もあるのです。一般常識から言えば不自然とも思える東京の自然最前線を、お散歩がてらご紹介しましょう。

第14回「ハシブトガラス」

 

 カラスは一年中、朝早くからカァーカァーと生ゴミのまわりに群がっています。見ていると、ポリバケツの中から生ゴミの袋を引きずりだし、くちばしで袋を破って中身を食いちらかしている。いつもの風景ですが、こんなことまでする鳥はカラス以外にはいません。カラスって力が強いだけでなく、都会でも効率よくエサを探す賢い鳥なのです。
 子供がカラスに襲われたという話も聞きます。カラスは頭もよくて用心深い鳥ですから、子育てをする5〜7月には巣に近寄る人間を追い払うために攻撃をすることもあるのです。私の仕事場の窓からは、出勤途中のおじさんがカラスに威嚇攻撃をうけているのが見えました。どうやらうちの窓の上のけやきの木に巣があったようです。あのくちばしでつつかれたら大人だって恐いですが、カラスの攻撃はくちばしではなく足のツメでキックします。カラスにとって最も重要で敏感な器官であるくちばしを、不意の反撃のリスクがある攻撃には使いません。
 くちばしといえば、街で見るカラスにはくちばしの違う2種類の仲間がいます。都会派のハシブトガラスと、郊外の畑などに多いハシボソガラスです。くちばしが太くておでこの盛り上がったハシブトガラスはもともと森の中に棲むカラス(ジャングルクロウ)でしたが、山林の開発で森を追われ、森は森でもコンクリートジャングルの都会に適応するようになりました。それまでは視界のひらけた畑や町のカラスだったハシボソガラスは、体の大きいハシブトガラスに追われるように郊外に引っ越してしまったといわれます。
 都内で悪名高いカラスはこのハシブトガラスの方で、鳴き声は澄んだカァーカァーという声です。これに対して、今は田舎のカラスになってしまったハシボソガラスの鳴き声はガァーガァーと濁っています。どちらかというと、ハシブトガラスの方が肉食の傾向が強く、生ゴミの中でも動物性タンパクを好みます。そのせいか、都会のスカベンジャーとしてだけでなく、生きたドバトやスズメ、ネズミを直接襲うカラスの目撃例も数多く報告されています。
 世界一屈強といわれる東京のカラスはすでに数万羽が生息し、石原都知事の間引き作戦もさほど効果が上がりませんでした。冬場は郊外の大きな森などで集団生活をするといわれるカラスですが、ここ数年、わがやのある団地内でも一年中夜中に声を聞くようになりました。ハシブトガラスはますます都心の生活に適応してくる気配です。


イトヒロ:少年時代の穴蝉とり名人にして東南アジアバックパッカー経由、草野球迷三塁手のイラストレーター。著作に「からだで分かっちゃう草野球」(学研)、「不思議の国の昆虫図鑑」(凱風社)、「草野球超非公式マニュアル」(メタ・ブレーン)、「旅の虫眼鏡」(旅行人)など。雑誌「子供の科学」に「イトヒロのご近所探検隊」連載中。