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イトヒロの東京不自然図鑑

<月イチ連載>

2004年5月11日up

 新宿から電車で10分。住宅地とはいえ、東京のど真ん中ともいえる世田谷にも自然があります。というより、都会でしか見られないような自然もあるのです。一般常識から言えば不自然とも思える東京の自然最前線を、お散歩がてらご紹介しましょう。

第11回「アカミミガメ」

 

 5月のある日、団地の中でカメを連れて歩いている女の子がいました。カメとお散歩中だったSさんは同じ団地に住む中学生。ペットショップで買ったミドリガメを、もう9年も飼育しているそうです。甲長13センチに育ったミドリガメは、首の横に大きな赤いしるしがあるミシシッピーアカミミガメのオスでした。
 夜店やペットショップで売られている小さな緑色のカメを、みなさんもよくご存じでしょう。その昔は「ゼニガメ」という名前で、イシガメの子供が売られていたそうです。それがいつの日からか、夜店の「ゼニガメ」は「ミドリガメ」に変わってしまいました。「ミドリガメ」という名前は緑色の子亀の総称で、そのほとんどは北米産ミシシッピーアカミミガメという外来種の輸入亀の子供なのです。
 1966年、ミドリガメは森永製菓のチョコレートの景品として登場し、日本全国にミドリガメブームを巻きおこしました。当選者にはプラスチックのせっけん箱にカメを入れて郵送したそうですが、ご記憶の方もいらっしゃるかもしれません。当時は「アマゾンのミドリガメ」というキャッチフレーズでしたが、残念ながらアマゾンにミドリガメは棲んでいませんから、このコピーはちょっといいかげんでした。
 ところが、その後も夜店や縁日で売られるようになったこのミドリガメは、大きくなりすぎて飼い主に捨てられたり、飼育ケースから逃げ出したりして、今では日本中の池や河川に帰化してしまいました。気性が荒く力も強いため、日本固有種のニホンイシガメや在来種のクサガメは生息域をうばわれ、大きな問題になっています。都内でも、公園の池や川に棲むカメのほとんどがミシシッピーアカミミガメになってしまったそうです。
 気候条件も近く、水質の汚れにも強いアカミミガメが、自然環境の悪化した日本で生息域を拡大していくのは当然のことかもしれませんが、こうした外来種の帰化問題も生態系破壊のひとつです。もとはといえば人間が持ち込んだのが原因ですから、大いに反省しなければならないでしょう。
 人間の都合ではるばる日本に運ばれたアカミミガメに罪はありませんが、こうなった以上、理想的な棲み分けをめぐって、イシガメ、クサガメを交えてよーく考えてもらえないものかと思うこの頃です。
 


イトヒロ:少年時代の穴蝉とり名人にして東南アジアバックパッカー経由、草野球迷三塁手のイラストレーター。著作に「からだで分かっちゃう草野球」(学研)、「不思議の国の昆虫図鑑」(凱風社)、「草野球超非公式マニュアル」(メタ・ブレーン)、「旅の虫眼鏡」(旅行人)など。雑誌「子供の科学」に「イトヒロのご近所探検隊」連載中。