◎◎◎◎

イトヒロの東京不自然図鑑

<月イチ連載>

2003年12月2日up

 新宿から電車で10分。住宅地とはいえ、東京のど真ん中ともいえる世田谷にも自然があります。というより、都会でしか見られないような自然もあるのです。一般常識から言えば不自然とも思える東京の自然最前線を、お散歩がてらご紹介しましょう。

 

第6回「ワカケホンセイインコ」

 

 東京の空を熱帯の鳥が飛んでいく。信じられますか? ワカケホンセイインコです。
 10数年ほど前、住宅地のケヤキの木ではじめてこの鳥を目撃したときは目を疑いました。大型で緑色のあざやかな鳥が、四、五羽の群れで頭上を飛び去っていったのです。一羽だけなら、どこかのペットが逃げ出したのだろうと気にもとめなかったかもしれません。しかし、集団で飛んでいくインコは説明がつきません。これは確実に東京に棲みついているのだと直感しました。
 その後、このインコがスリランカから輸入されたワカケホンセイインコで、ペットショップから大量に逃げ出したものが70年前後から世田谷あたりで繁殖していたことを知りました。今ではわが家のある団地にもやってきていて、毎朝ギャアギャア鳴いてはほかの鳥たちを蹴散らしています。
 それにしても、熱帯産のインコが日本の冬を越せるなんて不思議です。比較的寒さに強い大型種ということもあるでしょうが、やはり都心の気温上昇が熱帯に近い環境をつくりだしている背景があってのことでしょう。インコだけでなく、さまざまな熱帯の生物が今や東京には棲みついているのかもしれません。
 都内でも有数のワカケホンセイインコのねぐらがある、大田区の東京工業大学をたずねてみました。
 日暮れになるとどこからともなく、この大学のキャンパスにインコたちが集まってきます。そしてなぜか、構内にあるイチョウ並木の特定の木で眠るのだそうです。近づいていくと、数百羽がとまったその木の下だけが、まるで熱帯のジャングルのような鳴き声に包まれていました。すっかり葉を落としたほかの木にくらべて、インコの止まった木だけが若葉をたたえた真夏の姿に見えるのが愉快でした。
 守衛さんに「夏ごろから世田谷の方にはあまり姿を見せなくなったんですが…」とたずねると、「ここのねぐらには一年中いますよ。夏場はエサの木の実などがそこら中にあって、遠くまでエサ探しに出かけなくてもすむんじゃないかな」とのこと。なるほど、そういうわけだったのか。では、冬になって、また我が家でもインコが見られるようになるのだろう。
 最近でも希少動物の輸入が問題になっていますが、インコの脱走は偶然というよりペット業者が売れなくなったインコを大量に放したという話が真相のようです。そういえば2年前、私は同じく世田谷の住宅地でダルマインコとおぼしき集団を見かけました。
 力の強いインコがほかの野鳥を駆逐し、東京の空に熱帯の鳥たちがひしめく時代がそのうちやってくるのかもしれませんよ。
 

イトヒロ:少年時代の穴蝉とり名人にして東南アジアバックパッカー経由、草野球迷三塁手のイラストレーター。著作に「からだで分かっちゃう草野球」(学研)、「不思議の国の昆虫図鑑」(凱風社)、「草野球超非公式マニュアル」(メタ・ブレーン)、「旅の虫眼鏡」(旅行人)など。雑誌「子供の科学」に「イトヒロのご近所探検隊」連載中。