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イトヒロの東京不自然図鑑

<月イチ連載>

2004年2月9日up

 新宿から電車で10分。住宅地とはいえ、東京のど真ん中ともいえる世田谷にも自然があります。というより、都会でしか見られないような自然もあるのです。一般常識から言えば不自然とも思える東京の自然最前線を、お散歩がてらご紹介しましょう。

 

第8回「ヒヨドリ」

 

 「ピィーッ、ピーヨ、ピーヨ」
 真冬の空にヒヨドリの鋭い声がひびきわたります。
 全長30センチ弱。ハトより一回りほど小さく、ボサボサ頭がめじるし。全体にグレーで地味な色の中型の鳥ですが、その鳴き声はひときわ耳につきます。ヒヨドリは都会でもポピュラーな野鳥なので、ご存じの方も多いことでしょう。
 「ヒィーヨ、ヒィーヨ」という聞きなれた地鳴きが名前の由来だというヒヨドリは、都内でも一年中見られる留鳥*としてなじみ深い鳥です。でも30年ほど前までは、冬にしかやってこない代表的な漂鳥*だったのです。
 夏の間は山間部の林の中で繁殖し、冬になると市街地にあらわれる。そんな森林性の鳥であるヒヨドリが、どうして都心に住み着くようになったのでしょう。
 今、都心部では山間部や郊外からたくさんの鳥が侵入したり復活してきているといいいます。キジバト、コゲラ、カワセミ、カワウ、カルガモなどなど…。その中でも、都市鳥の元祖ともいわれるのがヒヨドリです。
 ヒヨドリは1970年代初めから都内で繁殖しはじめ、夏でもその姿が見られるようになりました。漂鳥から留鳥になった原因はいまだによくわかっていませんが、ヒヨドリの好きな果樹などが庭木に増えたことや、餌台などの環境が整ってきたことと、ヒヨドリ自身も雑食性を手に入れて食糧の豊富な都会に適応してきたことがあげられています。
 同時に、おとなしく臆病と思われていたヒヨドリが人間を恐れず、むしろカラスなどの外敵から身を守るために人間を利用するように近づいてきたことも理由として考えられるといいます。
 軒先のツバメのように、マンションのベランダの植え込みに巣をかけた例もあるというからびっくりです。
 我が家のある団地では一年を通して15、6種類の野鳥が見られますが、カラスにも立ち向かうことのあるヒヨドリの存在感はかなりのものです。適応力だけでなく、このくらいの根性がないと都会ではやっていけない、ということなのかもしれません。


*漂鳥/季節によって国内を移動する鳥
*留鳥/一年中同じところにいる鳥
*渡り鳥/外国との間を行き来する鳥
 

イトヒロ:少年時代の穴蝉とり名人にして東南アジアバックパッカー経由、草野球迷三塁手のイラストレーター。著作に「からだで分かっちゃう草野球」(学研)、「不思議の国の昆虫図鑑」(凱風社)、「草野球超非公式マニュアル」(メタ・ブレーン)、「旅の虫眼鏡」(旅行人)など。雑誌「子供の科学」に「イトヒロのご近所探検隊」連載中。