『これが日本の自然体験~エコセン世話人が独断で選ぶ日本の自然エリアと体験~』第33弾(中澤朋代)

「柏島のイルカ使い」

高知県土佐の国は太平洋に面していて、北に山を背負い、海川山が美しく、何を食べても美味しい所です。

この夏は長年の希望が叶い、エコセン仲間であるNPO法人黒潮実感センターの神田優さんに会いに、最西端の柏島を訪れました。大阪からでも車で高速道路を使い6時間半、本州からのアクセスはなかなかの距離です。目的地の柏島は馬蹄形の島で、マリンブルーと造礁サンゴが美しいダイバーの楽園。同時に日本で最も魚種の多い海域で、豊かな環境を活かして、外洋の波が来ない内海に企業がマグロとタイを養殖する漁業の島でもあります。

さて、せっかく来たので勇んで参加したシュノーケリングは、他4組の家族と一緒の総勢15名程のグループ。ガイダンスで機材の配布と、使い方の説明が漏れなくテンポよく行われ、各自がシュノーケル3点セットとライフジャケットの装備を持って、港に向かいます。そこで26人乗りの船に乗り、真っ黒に日焼けした神田船長の操船で、生簀の向こうの対岸のダイビングスポットに向かいました。同じく良く焼けた若いスタッフがロープを手繰り寄せ、狭い船上できびきびと仕事をする姿が頼もしい。水深10mはあったでしょうか、透き通った白い砂浜が沖に向かって続き、岸から数十メートルはシコロサンゴ群集が棚のように続きます。この日太陽に照らされたエメラルドブルーの海は美しく穏やかでした。

海洋生物の博士研究者でもある神田さんは、そこに暮らす生き物達の生態を、まるで魚らの日常目線から解き明かすような親しみやすい解説によって、海を知らない人にもグッと身近にさせます。船上では自ら製作した魚類観察シートを配り、この海域の生き物について船上でのミニレクチャー。ソラスズメダイは見る方向によって色が変わることや、ベラにはメスだった個体がオス化してハーレムを作る現象があるとか。ここの一番大きいオス化個体に「キング」と名付けて、「僕らに寄って来ますよ」「見たらすぐにキングと分かります」など。どういうこと?と、やや半信半疑のまま、解説は終わり。

「では僕についてきてください」神田さんに続き、皆が順々に船から海に飛び込むのを見計らって、神田さんが初めてフィンを付けた参加者ひとり一人に体の動かし方を教えてくれます。皆が方向転換などできるようになると、「では後をついてきてください」「ほら下を見て。順光から見るとソラスズメダイはエメラルドグリーンでしょう、こっちから逆光で見ると濃い青色に変わりますよ」「ほんとだ!!」。そんな体験をしていると、早速、キングが私たちめがけてやってきました。見事な大ぶりの虹色のベラで元はメスだった個体が性転換しオスとなり、ハーレムを形成するとのこと、その風格に皆が納得。神田さんが底に潜ってクモヒトデを手に取り、その習性を解説した後、「ヒトデの習性が分かるから、よく見ていてね」と海面付近から手放しました。本来は腕を閉じて抵抗少なくすっと沈んでいくのが、この個体はパラシュートのようにフワフワ沈んでいきます。もう少しで着地のところで、キングがパクっと食べてしまいました。「あ、こいつはのんびりしすぎたから、食べられてしまった」となんとも言えない表情の神田さん。生態系の連鎖を目撃して、参加者もその様子に釘付けです。そうか、キングはたまにおこぼれがあることを知って、ついてくるのか。

シュノーケリングツアーが終わり、柏島で今人気のイルカを良ければ案内しますよ、ということで希望者が小さな船に乗り換えて、ドルフィンウオッチングへ。

「イルカが僕の船について来るんです。餌付けは一切しませんけど。」と、神田さんが言います。

前の4人家族の出航を岸から見送ると、しばらくして1頭のイルカの背びれが船によって来ました。すると航路と平行に5回連続ジャンプをしながら、船を追いかけていくではありませんか!?こんなことって、あります?映画の世界ですか?

そのご家族は興奮して帰着。私たち親子2人の乗船となり、船の上でイルカがやって来る秘訣を教えてもらいました。

2頭のイルカはここ7年柏島に暮す、母と息子の親子イルカ。特に息子は神田さんが大好きで、船の音を聞き分け近づいて来て、船を停めると船尾を押して船を廻して遊びます。「最近こいつはこの遊びにハマっていて。」と、神田さんが愛おしそうに言います。いつまでも船から離れる気配がありません。橋の欄干には3人が乗った船をイルカが回している様子を、多くのギャラリーが見物。私たちもまた見世物です。

イルカが寄って来る理由を聞くと、「イルカをじっと観察して、何を望んでいるか行動や目の表情から読み解いて、して欲しいことをしてあげる」とのこと。独特のエンジン操作で一緒に走ったり、止まってみたり。日々そうして神田さんは時間をかけてイルカと向き合っていたそう。若いイルカはそんな神田さんの船を遊び相手と認識し、スクリュー音を聞き分けて寄って来る。当然気の乗らない日もあるので、お互いの塩梅で付き合う。私たちの帰り際には遊びに飽きて、数十メートル先で呼ぶお母さんのところに帰っていきました。

柏島にいる魚やイルカと神田さんの日々の関わりは、こんなに濃密なものだったとは!

そこが最も面白いポイントのエコツアー!でした。

美しい景色だけでも十分に価値はありますが、生きて暮らす者同士の関わり、特に、種を超えた関係を体感できるのは、ならではの醍醐味でした。このツアーは環境保全の寄付制度がセットで、代金の一部が地域に還元されます。

【エコセン共同代表理事 / 松本大学非常勤講師 中澤朋代】