『これが日本の自然体験~エコセン世話人が独断で選ぶ日本の自然エリアと体験~』第30弾(齋藤 新)

泰阜村の棚田
今回は長野県南信州に位置する泰阜村の棚田を紹介します。
といっても、棚田百選に選ばれるような特別な場所ではありません。
春になると、それまで草が生い茂っていた田んぼが、次々ときれいに起こされていきます。
水が張られた田には、青空や山の景色が映り、風に揺れます。
その様子を見ているだけで、なんだかワクワクしてきます。
けれど、その美しさ以上に心が躍るのは、村の人たちが寒い冬を越え、春とともに一斉に動き出した様子が伝わってくるからかもしれません。
人の気配が少ない冬から一転し、慌ただしく田んぼ仕事に勤しむ姿は、村の営みが確かに続いていることを感じさせてくれます。
そして今年も、去年と変わらない日常が巡ってきたのだという、静かな安心も与えてくれます。

人口が減り続ける山村では、田んぼをやめてしまう方も増えています。
作り続けている方々でさえ「米は買った方が安い」と口をそろえます。
それでも、先祖代々の田んぼが荒れてしまうのは忍びないと、重い腰を上げて作業を続けています。ですが、それも難しくなれば一枚、また一枚と手放され、かつての風景は少しずつ姿を変えていきます。
だからこそ、今年もあちらこちらで田んぼに水が入り、田植えの準備が進んでいる光景が、何よりも美しく感じられるのです。
特別なものではなくても、この当たり前の春の景色が続いていることが、日本の美しさであり、その象徴なのだと思います。
【エコセン理事 /
NPO法人グリーンウッド自然体験教育センター 代表理事 齋藤 新】


