スペシャルな『旅の話』シリーズ 第15弾!(江崎 絢子)

(ロンドン・ナショナル・ギャラリーの近くで見かけたストリートアート、2003年)

2000年代。

 
まだソーシャルメディアもあまり広まっていなく、スマートフォンも存在しなかった頃、
アメリカの大学で学生生活を過ごしていた自分は、休みがある度に旅行を楽しんでいた。

 
あまり深く考えることなく、「時間があるなら旅行」というのが当たり前のように
学期中はアルバイト、休みになれば旅行、とそのパターンを繰り返していた。

 

大学3年目の春、ロンドンでインターンシップをしながら学ぶワークプログラムに参加した。
短期間滞在ではあったが、たくさん歩き回って近所のエリアに「自分が住む町」として
愛着を持つようになり、初めて「地元住民」の視点(に近いところ)から観光を体験することになった。

 
近年よく話題になっているオーバーツーリズムという言葉は当時はまだなかったが、
写真を撮るスポットでの混雑、早く安く買い物をすることだけが目的であるかのような
観光グループの態度など、観光という現象のネガティブな面が見えてきた。

 
同時に、自分も他の国を訪ねる時はツーリストであり地元住民からはそんな風に
見られているのかもしれない、「旅行が好き」というのはとても自分勝手なこと
なのかもしれない、と気付くきっかけでもあった。

 
何を求めて何のために自分は旅行をするのだろう。

 
そんな問いを持ちながら、また次の旅行を計画していた時のこと。
今でもよく覚えている瞬間があった。
2週間の休みのうち最初の週は友人と一緒に、その後はそれぞれ別々になる日程だった。
一人で過ごすのは慣れていなかったので、2週目も滞在したいか、帰ってくるか、
他の誰かを探すか、迷っていた時、ふとこんな考えが頭にうかんだ。

 
「もし一人で旅行に行って、その話を誰にもしなくて写真も誰にも見せないとしたら、
それでも私は旅行を楽しむだろうか。」

 
当時は写真を「シェアする」と言えばデジタルカメラで撮った写真をEメールで送るくらいで、
今のようにいつでもどこでも気軽にできることではなかった。
それでも、旅行に行く楽しみというのは、知識や経験など個人的に得るものがあるからではなく、
他の誰かに「自慢」できるからなのか。
そんな問いに自分でショックを受けた感覚をよく覚えている。

 
そんな時、写真家で環境活動家のYann Arthus-Bertrand氏の、
「Earth from the Air」
という展示に出会った。
自然や文化の美しさだけでなく人間社会の課題や問題点も含めて、
様々なストーリーを伝える写真の数々に魅了され、展示期間中何度も通った。

 
その思い出に買ったダイアリーには、写真に加えて地球が抱える環境や社会問題と
解決方法に関するメッセージが書かれていた。

 
そしてその中の一ページが、自分の人生を大きく変えることになった。

 
(訳)「観光により、人々の移動が資源の過剰な消費に繋がるようになり、
特に発展途上国では深刻な不均衡を起こしている。
ここ数年、地元の資源や人々を尊重するSustainable Tourismという
観光のあり方の基盤が築かれてきた。」

 
何のために旅行をするのか、そんな自分の迷いに対する答えのヒントをもらったと同時に、
「サステイナブルツーリズム」という概念に出会った最初の瞬間であった。

 
サステイナブルな観光とはどういうことなのか具体的には何も知らなかったが、
直感的に「サステイナブルツーリズムに関わること」を目標とした。
自分が将来やりたいことはきっとこれだ、という強い確信がなぜかあったからだ。

 
あれから17年。

 
そんな願いがかなってサステイナブルツーリズムに関わって仕事をしている今、
世界各地で観光業界に関わる人たちと、地元住民の視点から見た観光のあり方、
消費するだけでなく学ぶ機会としての旅行、そして、地元の資源や人々を尊重する旅など、
そんなテーマのやりとりをする毎日だ。

 
それらのやりとりを通して観光への理解を様々な視点から深めることによって、
自分の中での「何のために旅行をするのか」という問いへの答えにも、
少しずつ近づいている気がする。

 
【エコセン世話人 /
Head of Knowledge Management & Communications TrainingAid /
Training Director, Global Sustainable Tourism Council (GSTC) 江崎 絢子】
(2020年8月3日配信 メルマガ掲載)

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